.………ラップもそうした活発な競争の中から一つの音楽のスタイルとして確立されてきた。最初はDJ自身が喋っていた、場を盛り上げるための韻を踏んだフレーズ や、聴衆とのコール・アンド・レスポンスのやりとりを専門のMC(マスター・オブ・セレモニー)が受け持つようになり、そこから発展してMC達がブレイ ク・ビーツに乗せた自作のライムを競い合うようになったものである。ラップという、音楽のリズムにのせて喋るという形態の楽曲自体は黒人文化においては決 して新しいものではない。ジェームス・ブラウンやアイザック・ヘイズのようなソウル・アーティストや、古くはボー・ディドリ-やルーファス・トーマスのよ うなリズム&ブルース時代のアーティストも同様の手法を使った曲を発表している。しかし、その根源はもっと基本的な、黒人達の日常会話の中に存在する性質 そのものである。

黒人の口承文化の研究家であるロジャー・D・エイブラハムの70年代のエッセイによれば、『ラップ』とは言葉を巧みに使った言い回しで あり、いかに無理のない自然な言葉、技巧を用いてウィットに富んだ独自の言い回しをするかを競う『ラッピング』は黒人の日常生活のあらゆる場面で行われ、 それに優れている者は人々から尊敬されたという。さらに、そのルーツはアフリカ大陸にまで遡れるとして、ジョン・ブラッキングのアフリカ文化研究『ヴェン ダの謎々の社会的価値』から引用している

「ヴェンダ族では、地位を決定するのは年齢と身分であるが、そこからさらに出世する方法はわずかしかな い。  ….最大の栄誉は、単語とか文章を巧みに使える人、あるいは、様々な歌詞を知っているか即興で作詞できる人、あるいはさいころを振って祭文を 早口で唱えられる人に与えられるようである。…….言葉の知識、形式ばった言葉の知識は呪術的な力である。この知識が強い印象を与える場合が多い ので、呪術的な力を実際に用いる必要はない。」
(ロジャー・D・エイブラハムス「黒人の話術」 J・F・スウェド編『ブラック・アメリカ』所載 73年 研究社)

つまり、こうした性向がアフリカ起源の伝統である口承文化の一部として黒人文化の文脈に昔から存在していたのである。黒人文化におけるバッドニガー説話を 語る形式である『トウスト』や、お互いの母親の悪口を言い合って、いかに平静を保って相手を言い負かしてやりこめるかを競う言葉遊びである『ダズンズ』な どはそのような文化的性向から生まれてくるものであり、黒人ラジオのパーソナリティ・ジョッキーの躁病的な独特のスタイル(ジャイブ・トークとも呼ばれ る)も同様である。  ヒップホップにおけるラップも、そうした黒人文化の伝統に基づいたものと考えられる。現在の『フリースタイル』という、ラッパー同士が互いに即興でラッ プする能力を競い合うという形式は過去の『ラッピング』や『ダズンズ』の伝統にそったものであるし、ストーリー性を持つ『トウスト』的なスタイルのラップ も一般的である。 また音楽的に、その言葉をブレイクビートのリズムに乗せるやり方や特徴的な言い回しといったラッパーのスタイルにオリジナリティが要求 されるという点についてや、コール・アンド・レスポンスのやりとりなどは、黒人音楽の本来の伝統を甦らせ、受け継いでいる。……………


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minority-net の NEW RELEASE で、”SPELLBOUND ’96” を紹介してくれています。

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