YIN & YANG イントロダクション

送信者 B.A.P. Blog


言葉を吐き出すだけでなんの意味も持たないラップもあれば、
単なる音を越えて雄弁にメッセージを語り出すビートも確実に存在する


 今年5月にリリースされたコンピレーション『Harlem ver. 2.0』では、Ben TheAceの久しぶりのプロデュース作品となるHi-Timez“Train Da Real MC’s”を聴くことができたけれど、そこには10年以上の活動歴を誇る者が作ったものとは到底信じ難いほどの瑞々しい躍動感が漲っていた。
 そもそも、ジャスト・アイスのヒップホップ・クラシック“Cold Gettin’ Dumb”を再構築するという発想自体が現在の彼のモティヴェーションを表しているようだし、その佇まいからは、初期衝動が一周した結果として新たな推進力を手に入たような、そんなニュアンスを汲み取ることもできるだろう。
 そういった経緯もあり、Ben The Aceの10年に及ぶキャリアを総括するミックスCD『YIN and YANG』がリリースされるという報が舞い込んできたときは、やはり彼の中では既に次のレベルの構想が出来上がっているに違いないと確信したし、それはヒップホップ・シーンに対してもBen The Aceの新しいステージが間近に控えているのを強く意識させることになるんじゃないかと思う。
 Ben The Aceにとって『YIN and YANG』というアルバムは未来へのプロローグとしても機能するのだろうが、同時に自らの立脚点を再確認するという点でも非常に重要な意味を持つのだろう。
 You The Rockと活動を共にしていた頃の初期の作品群での、沸き上がる衝動をそのままぶちまけたような圧倒的なエネルギーは、このアートフォームが「とにかく俺に3分間だけしゃべらせろ」というシンプルな自己顕示欲から始まっていることを思い出させてくれる。
 MuroやTwigyとのコラボレーションに宿るソリッドでスリリングなグルーヴからは、ヒップホップ・サイエンスの奥義とはどういうものであるのか、そのひとつの解答が音の向こうから透けて見えてくるようでもある——つまり、この『YIN and YANG』から浮かび上がってくるのは、Ben The Aceが〈肉体〉と〈頭脳〉の一致が図られたサウンドを構築することができる数少ないコンポーザーの一人であるということだ。“トワイライトゾーン”で共演したK-Dub Shineは彼のトラックを評して「イマジネーションが掻き立てられる音」と言ってのけたそうだが、それは実に的確だと思う。言葉を吐き出すだけでなんの意味も持たないラップもあれば、単なる音を越えて雄弁にメッセージを語り出すビートも確実に存在するのである。
 そんな視座を持ち合わせた男だからこそ、冷静に状況を見つめ続けてきた末の本格的な活動再開には、自ずと寄せられる期待も大きくなってくるのだと思う。自身の長い活動にひとつの節目を設けたBen The Aceは、今後果たしてどんな音を我々の前に提示してくるのか——『YIN and YANG』はそれを推し量る上でのヒントに成り得ると思うし、彼がどんな思いを抱きながら自分の歴史をミックスしていったのかを考えながら聴くのもまた一興だろう。

高橋芳朗(2003年/リリースシートに掲載)

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中