Ben the Ace Production works

『YIN & YANG Best of Ben The Ace 1993-2003』 のリリースにあたって、フリーペーパー「INNER CHANGE」掲載したBEN THE ACEによる序文。

 自意識の革命      REVOLUTION OF MY MIND

2001年9月11日以来、アメリカと中東イスラム世界の関係が問題化していくニュースを目にする度に、マルコムXのことを思い出していた。
今から40年近く前、聖地メッカで真にイスラムとして目覚め、アメリカと中東のイスラム世界の橋渡し役をするはずだったが、暗殺されてしまったマルコムがもし現代に蘇ってこの現実を目の当たりにしたら、何と言っただろうか。

 実際のところ、想像をはるかに超えたハリウッド映画のようなニュースの連続で僕の頭は混乱していた。 現実味がまるで感じられなかったのだ。ワールド.トレード・センターに航空機が突入する映像と今自分が生きている東京が繋がらない感じだった。
  しかし現実味を取り戻す手がかりはあったのだ。以前は海外のニュースは対岸の火事としか感じられなかったが、今回は違った。僕はあのグラウンド・ゼロと呼ばれるようになった一帯をよく知っていた。妻の通ってい大学が近くにあり、彼女と二人でよくうろついた場所だ。
 そして、どうしてこんなことが起こりうるのかという「理由」を考える助けになるような知識も身についていた。
 興味の湧くままに様々な本を読むことを続けてきたおかげで、マスコミ報道では伝えきれない、さまざまな隠れた真実の存在を知っていたからだ。

 僕がニューヨークに行くことになったのも、読書による独学をするようになったのも、どちらも今から十数年前、『マルコムX自伝』を読んで影響を受けたのがきっかけだった。 
  その当時、世界情勢は激しく変化していて、東西冷戦時には考えられなかったことが次々に起こっていた。僕はDJのバイトをしながら大学にも通う二重の 生活に追われ、世界情勢に気を払う余裕などほとんどなかったが、音楽だけはひたすら聴いていて、まだ革命的だった頃のヒップホップが放っていた社会的、政 治的なメッセージには自然と反応していた。何が本当に起こってるのか、現状を赤裸裸に表現していた。
 それは僕が持っている価値観というか、気質に共鳴するものだった。 それまで社会に大して漠然と感じていた疑問や不満を完全に解消することは出来なくても、それに対処していくやり方を示しているように感じていたのだ。
  実際、ヒップホップという音楽文化と、そこで出会ったマルコムXの言葉から教わったのは、そのやり方だったと思う。
それを自分の生活で実践することで自分の道を切り開いてきた。たかが音楽や本をかじったくらいで何が変わるというのだ、と思う人もいるだろうが、それが僕の人生を本当に変えてしまったのだ。

 いまになってマルコムが心に現れたのは、自分のような気質を持った人間が何らかのアクションを起こす時がやってきたというサインだと感じられた。そして 90年代初頭、YOU THE ROCK & DJ BEN として、なんとか自分達が革命的なヒップホップから受けた影響をそのまま自分達の身に置き換えて表現できないかと試行錯誤していた頃を思い出していた。当 時は今ほどヒップホップが注目されてなく、まるで相手にされなかったが、改めて聴いてみると、社会を糾弾するそのメッセージは今聴いても通用するものばか りで新鮮に聴こえた。
今のヒップホップに物足りなさを感じる原因である、失われてしまった何かがそこにはあった。時代がひとまわりして振り出しに戻ったような気がした。僕の中 では、自分が活動していくにつれて重要性を失っていった楽曲だったが、時代の変化の影響からか感じ方が変わってしまっていたようだ。これを今のヒップホッ プのリスナーが聴いたらどの様に感じるだろうか。歴史は繰り返す、という言葉が頭に浮かんだ。世界情勢にしろ、日本の社会にしろ、当時の状況と今の状況は よく似てないだろうか。そして日本のヒップホップを取り巻く状況も。

 今回リリースした、自分がプロデュ−スした曲ばかりを集めたミックスアルバムのタイトルにもなった、「Yin &Yang(陰陽)」のコンセプトが浮かんだのはそんな時だった。陰陽とは中国の古代からの哲学である太極(Tai-Chi)を表現するもので、 僕が’97年にNYでブルース・リ−にハマって、彼の映画と哲学書から学んで以来、自分のアルバムのタイトルに使おうと考えていたものだった。

 陰:否定的、受動的、穏健的、内的、非実質的、女性的、月、 暗、 夜
 陽:肯定的、能動的、堅固、 外的、実質的、 男性的、太陽、明、 昼

 「陰と陽が象徴するこのような対立する両極は、それぞれが排除しあう関係ではなく、相互に補足しあい、協力しあう一つの分離出来ない力であり、宇宙とそ れを構成する多くは絶えること無く連続する相互作用によって存在している。決して変化することなく、永続していくものは、宇宙には何もない。」

 この考え方は僕が生きてきた人生から受けた実感と共通するところがたくさんある。
 僕の音楽活動は、精力的に活動して多くの作品を発表している時もあれば、表立った動きはせずに全く作品を発表していない時期もあったりする。はたから見 れば何もしてない様に見えるときでも、作品を出さなくてもいつも音楽を聴いているし、その事について考えている。そしてそれが次の創造へと繋がっていく必 要なプロセスの一環となってきた。
 意識してそうしてきたわけではなく、手探りでやってきて、周りの環境が変化していくのに対応せざるを得ない場合のほうが多かった。
 そのような活動の軌跡であるにも関わらず、同じ活動を続けていても、結果は陰と陽の相互変化を表していたのだ。

 今まで一緒に仕事をしてきたラッパ−達との関係でも、同じプロジェクトに関わったとしても、DJやトラックメーカーとして役割的には陰の部分を担ってきた。それも自らの役割としてすすんでそうしてきた。
 今回のミックスアルバムは同じ楽曲を使って、しかも僕が役割的に陽となる。BEN THE ACE名義のアルバムとしては、実はこれがデビュー作になる。
 このようなミックスアルバムの構想は以前からあった。そもそも僕がインディペンデントレーベルを運営して、独立の道を選んでいる理由は、こういう展開を 想定して、自分達の音源をできるだけ自由に使えるようにするためだった。それが保留になっていたのは、自分の過去の作品をまとめて出す必然性を感じなかっ ただけの話である。これまで僕自身の意識は、未来の向を模索するのに向かっていた。
 今でもその意識が変わったわけではないのに、その過程で自分の過去の作品を再発見し、改めて向き合ってみて、それを世に出す必然性を感じたのだ。今ではそれが未来に向かうのに必要なステップのように感じている。

 最後に、僕が何かを決断をするときに思い返す、偉大な哲人ブルース・リ−の言葉を紹介しよう。僕は、この言葉に背中を押してもらって、事を起こす覚悟を決めてきた。

 「知るだけでは不十分だ。実際に応用しなければならない。
  意志があるだけでは不十分だ。実行しなければならない。」
                 
2003年8月   Ben The Ace

これについてはまた次の機会に。

Posted by blackark69

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